2017年プリンストン滞在記

垂水 勇太

図1:温度と密度の関係(シミュレーション)。

図2: Zel’dovich Pancake

 

 

 

 

 

 

 

 

2017年9月から11月まで2ヶ月間、Princeton大学の宇宙物理学科に交換留学生として滞在し、そこでRenyue Cen先生の指導のもと銀河形成シミュレーションのデータ解析を行った。来年度以降宇宙理論の研究室に進学したいと思っていた僕にとって、研究しながら天文学の知識を得ることができる素晴らしい機会であった。

研究では様々な物理量の密度温度プロファイル上の分布を見たり、ガス、星、ダークマターの宇宙空間上の分布を見たりした。密度温度プロファイルの例は図1である。星を作りそうな低温・高密度のガスについて、それらのmetallicityの分布を赤方偏移ごと、また銀河ハローの質量ごとに求めてプロットしたところ、それらの間にはほとんど差が見られないことがわかった。またその途中、高赤方偏移にあるいくつかの銀河で、低温・低密度のガス(図1では密度10^-2個/cc、温度100~10000Kのところ)がかなり内側まで入り込む現象が見られた。それは”Cold Stream”という研究対象になるものかもしれないと思われたので、それの物理的配置を確認したところ、”Stream”というより”Surface”のような感じで、これはZeldovich pancakeと呼ばれるものが見えているのだとわかった。図2の中央にあるミルフィーユのようなものがそれである。

Princetonで感じたこととして、先生と生徒の距離が近いというものがあった。”Facul-tea”という、Faculty(教授など偉い人)のうち1人がGraduate Studentsのラウンジに来て1時間ほど自分の研究内容について喋ったり、Graduate に逆質問をしたり、という会が週に平均2回ほど開かれていた。そこでGraduateはFacultyに様々な質問をぶつけていて和気藹々とした雰囲気だった。

天文学科全体で一つのグループのようになっていて、仲が良かった(Graduate Studentsの中で誕生日の人がいる日にはラウンジにpumpkin pieをみんなで食べていた。ちょっともらって美味しかった)。”Coffee Talk”という論文紹介会がほぼ毎朝(火曜日はIASでのセミナーがあるのでお休み)あり、そこではポスドクや教授などの研究者がメインで話すのかと思いきや、大学院生もかなりの割合で議論に参加しており非常に刺激になった。彼らの輪に入るのはなかなか大変ではあったが、Mamiさんという事務の方に気さくな学生を紹介していただき非常にありがたかった。彼とは留学中同じ部屋で過ごし、頻繁に話をした。またpumpkin tossというイベントがハロウィンの頃にあり、それを大学院生たちと見学することで打ち解けることができた。

プリンストンにおいて、Renyue さんに色々教えてもらいながらデータ解析ができたのは素晴らしい経験であった。英語に関しては、Coffee Talk において、ネイティブでない人も多く様々な発音がある中で皆ほとんど自然にコミュニケーションが取れており、彼等と共に議論するにはリスニングの力 (背景知識が足りないせいもあると思う) が最大の課題であると感じた。彼らとコミュニケーションを取るため、英語や物理、天文の 勉強をしようと今までより強く思った。このような機会を与えてくださった東大ープリンストン大戦略的提携基金、面倒を見てくださった日下先生と吉田先生、現地でとてもお世話になったMami さん、唐牛さん、増田さん、仏坂さん、そして辛抱強く僕を指導してくださったRenyue Cen 先生に、深く感謝申し上げます。

 

山田 恭平

研究室のメンバーとの集合写真。左からポスドクのPatty、大学院生のSarah Marie、Steve、筆者、アドバイザーのSuzanne T. Staggs教授、大学院生のYaqiong、Kevin、Erin。

Princeton大学のキャンパス

 

 

 

 

 

 

 

20179月から11月の2か月間、Princeton大学物理学専攻で交換留学生としてSuzanne T. Staggs教授の下CMBの観測実験に関連する研究を行った。CMBの観測では検出器を極低温に保つ必要があるため検出器を設計する上で発熱を抑えるようにしたり、熱を効率的に排出するよう熱伝導率の高い物質を用いる必要がある。また、検出器を構成する物質の膨張率の差によって冷却時に検出器が壊れないように設計する必要もある。そこで私は検出器の熱伝導解析や、実際に検出器の一部を冷却して壊れないか確認するといったことをした。熱伝導解析はSuzanneのグループ内にやっている人がいなかったので他の大学の人に通話やメールで指導をいただくこともあって大変だったがよい経験になった。

 

Princeton大学では教員らと気兼ねなくコミュニケーションできるフレンドリーな雰囲気が印象的であった。各部屋の扉は会議の時以外は開いていることが多く、教授らも含め皆ファーストネームで呼び合うし、Suzanneとばったり廊下で会った時にHiと声をかけられるのは日本では無い感覚で新鮮だった。Princeton大学は自然の中に歴史ある建物が並ぶ非常に美しいキャンパスで研究が行き詰った時には外に出れば美しいキャンパス内を散歩できるので気分転換に非常に良かった。物理学専攻であるJadwin Hallの廊下にはいくつもの黒板があり、学生らはその前で活発に議論を行っていた。研究室のメンバーとの集合写真はその黒板の前で撮ったものである。毎週金曜5時にはFriday beer partyがあり、破格の値段のビールを飲みながら物理学専攻の大学院生らが交流していた。なかなか会話に入ったりついていくのは大変だったが、他の留学生は比較的話しやすかった。Princetonでは分野の垣根を越えて交流できる機会も企画されており、そこで生物、建築、心理学、宗教などを学ぶ学生らと話すこともできて良い経験になった。また、留学中に中性子星合体の重力波の初観測が発表され、直後に宇宙物理学専攻のPeyton Hallでその発表を聞くことができた。マルチメッセンジャー天文学の幕開けにアメリカで立ち会うことができたのは感動的であった。2か月間のPrinceton留学ははじめは長く感じたが終わってみればとても短く、研究室のメンバーと距離が縮まってきたところで帰国になってしまったのでもう少し長ければと思うところもあった。

 

これまで海外経験がなかったことに加え、名門のPrinceton大学で2か月間やっていけるか少し不安があったが、実際に行ってみると研究のコミュニケーションで主に問題となるのは英語力よりも物理の知識だった。英語は多少わからなくてもしつこく聞けばなんとかなるが物理がわからないとどうしようもないので物理の勉強に対する強いモチベーションになった。研究室の学生との何気ない会話はアメリカの背景知識が足りずについていけないことがあった。学生のレベルに関しては僕が話をした範囲では東大の物理学科のレベルは全く遜色ないと感じたので東大の価値を再確認できたように思う。海外の大学にいくと日本とは全く違う分野の研究が盛んだったりするので自分の視野の狭さに気づかされたのは非常に有益であった。今回の経験で海外で研究するということが自分にとってより現実的に感じられるようになったので今後より一層物理や英語の勉強に力を入れようと思った。

 

最後にこのプログラムを支えてくださっている方々、Princetonでお世話になったすべての方々に深く感謝したい。